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医院ブログ

2026.08.24

避難生活・断水時に命を守る『災害時の口腔ケア』完全ガイド

皆さんこんにちは。
千葉県市川市にある三浦歯科医院の院長の三浦靖です。
このたびの千葉県豪雨災害により被災された皆様、そして今なお避難生活や片付けなど、不自由で不安な日々を過ごされている皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
今回の豪雨は私たちの街、市川市にも大きな傷跡を残しました。
ニュースで流れる冠水した道路や地域の映像を見て、胸を痛められている方も多いことと思います。
実は、当院におきましても、今回の豪雨により院内に多少の浸水被害がございました。
一時はスタッフ一同大変焦りましたが、幸いにも診療設備や機材への深刻な影響はなく、現在は完全に安全を確認し、問題なく通常通り診療を行える状態に復旧しております。
お口の中に痛みや違和感がある方、仮歯が取れてしまった方、あるいは避難生活や片付けの疲れから歯ぐきが腫れてしまった方など、どうぞ我慢なさらずに、いつでも安心して当院を頼ってください。
私たちは、市川市のかかりつけ歯科医院として、このような非常時だからこそ、皆様の健康と笑顔を守る砦でありたいと考えています。

さて、こうした災害が発生した際、どうしても後回しになりがちなのが『お口のケア(口腔ケア)』です。
「家や命が無事だったのだから、歯磨きくらいできなくても仕方がない」
「水が貴重なのだから、うがいを我慢するのは当然だ」
そう思われるかもしれません。
しかし、過去の大震災や豪雨災害のデータを紐解くと、避難生活中に「お口のケアを怠ったこと」が原因で、命を落とす二次被害(震災関連死)が多発しているという、衝撃的な事実があります。
なぜ、お口のなかの清潔が命に関わるのか。
そして、水や道具が足りない過酷な避難環境のなかで、どのようにしてお口の健康を守ればよいのか。
本日は、今回の豪雨災害を経験した市川市の皆様に向けて、歯科医学の観点から「命を守るための災害時口腔ケア」について、どこよりも詳しく解説させていただきます。
少し長い文章になりますが、ご自身と大切なご家族の命を守るために、ぜひ最後までお読みいただき、日々の生活にお役立てください。

なぜ災害時に『お口のケア』が命を左右するのか?

災害時にお口のケアが最優先事項の一つになる理由は、単に「虫歯や歯周病を防ぐため」だけではありません。
全身の健康、ひいては命に直結する3つの大きなリスクが存在するからです。

1.災害時の最大の敵「誤嚥性肺炎」
過去の災害(阪神・淡路大震災や東日本大震災など)において、避難生活中に亡くなられた方の死因の多くを占めていたのが「肺炎」、その中でも特に「誤嚥性肺炎」でした。
私たちの口の中には、数千億から数兆個もの細菌が常在しています。
普段、健康な状態であれば、唾液の自浄作用や免疫力、そして「せき込み(むせ込み)」という防御反応によって、これらの細菌が肺に入り込むことはありません。
しかし、災害による強いストレス、睡眠不足、栄養バランスの偏りなどによって免疫力が著しく低下すると、お口の中で爆発的に増殖した細菌が、唾液や食べ物と一緒に誤って気管から肺へと流れ込んでしまいます。
これが原因で引き起こされるのが誤嚥性肺炎です。
特に体力の低下した高齢者や要介護者にとって、誤嚥性肺炎は一命に関わる恐れのある、非常に恐ろしい病気です。
「お口を清潔に保つこと」は、肺に送り込まれる細菌の数を減らし、この誤嚥性肺炎を予防するための最も確実な手段なのです。

2.脱水症状と「エコノミークラス症候群」の引き金になる
お口の中のケアができないと、ネバつきや不快感、口臭が強くなります。
すると、人間は無意識のうちに「口を動かしたくない」「物を食べたくない」「水分を飲み込みたくない」という心理状態に陥りやすくなります。
特に避難所などでは、トイレに行く回数を減らしたいという心理も働き、水分摂取を控えてしまう方が大勢いらっしゃいます。
お口の不快感がそれに拍車をかけることで、重度の脱水症状を引き起こしたり、血液がドロドロになって血管が詰まる「エコノミークラス症候群(急性肺血栓塞栓症)」を誘発したりする危険性が高まります。

3.ウイルス感染症(インフルエンザや風邪、感染性胃腸炎など)のリスク急増
お口の中に住み着く歯周病菌などの細菌は、「プロテアーゼ」や「ノイラミニダーゼ」といった酵素を放出します。
これらの酵素は、インフルエンザウイルスやその他のウイルスが、人間の粘膜細胞に付着して体内に侵入するのを手助けする働きを持っています。
つまり、お口の中が汚れている人ほど、ウイルスに感染しやすくなるのです。
避難所のような集団生活の場では、一つの感染症が爆発的に広がるリスクがあります。
お口をきれいに保つことは、自分自身を感染症から守るだけでなく、周囲への感染拡大を防ぐための「社会的な防疫」でもあるのです。

水や道具が足りないときの具体的なケア

技災害時は、普段のように「蛇口をひねれば潤沢に水が出る」「お気に入りのハミガキ粉とハブラシがある」という環境ばかりではありません。
ここでは、水や道具が制限された状況でも実践できる、具体的なサバイバル口腔ケアテクニックを紹介します。

シチュエーションA:コップ1杯の水とハブラシしかないとき(節水型歯磨き法)
水が非常に貴重な断水時でも、コップたった1杯(約200ml)の水があれば、効果的に歯を磨き、お口をゆすぐことができます。
ポイントは「ハミガキ粉を使わないこと」です。
ハミガキ粉を使うと泡立ってしまい、それを洗い流すために大量の水が必要になってしまいます。

①ハブラシを濡らす:コップの水をハブラシの毛先に少しだけつけ、ハブラシを湿らせます。
②ハミガキ粉なしで磨く(素磨き):歯を丁寧に磨いていきます。このとき、お口の中に溜まった唾液や汚れ(泡状のもの)は、飲み込まずに、あらかじめ用意したティッシュペーパーや紙コップに吐き出します。
③ハブラシの汚れを拭き取る:磨いている途中でハブラシが汚れてきたら、コップの水で洗うのではなく、ティッシュペーパーで毛先の汚れを拭き取ります。これでコップの水を汚さずに済みます。
④仕上げの少水量うがい:最後にコップに残った水を使ってうがいをします。ここでもコツがあります。一気に水を口に含むのではなく、「大さじ1杯程度(約15ml)」の少量の水を口に含み、クチュクチュと強く激しくうがいをして吐き出します。これを2〜3回繰り返します。これだけで、普通にうがいをするのと同じくらいの洗浄効果が得られます。

シチュエーションB:ハブラシが一切ないとき(布・ティッシュによる拭き取り法)
物資が届かず、ハブラシさえ手元にない場合は、指と身の回りにある布を使って汚れを落とします。

①指に布を巻く:清潔なハンカチ、タオル、ガーゼ、あるいはティッシュペーパーを人差し指に巻き付けます。(もし手元に「口腔ケア用ウエットティッシュ」や「歯磨きシート」があればベストです)。
②水で少し湿らせる:水があれば、布の先をほんの少しだけ濡らします(ウエットティッシュの場合はそのまま)。
③歯の表面を優しく拭う:歯の表面、特にはぐきとの境目(歯頸部)を優しくなぞるようにして、白いネバネバした汚れ(歯垢)を拭き取ります。
④粘膜も拭く:歯だけでなく、上あご(口蓋)や、頬の内側、舌の表面も優しくなでるように拭き取ると、お口の中の細菌数を劇的に減らすことができます。※注意:強くこすりすぎると、デリケートな口の中の粘膜を傷つけてしまうため、あくまで「優しく」行うのが鉄則です。

シチュエーションC:水が一切使えないとき(洗口液・液体ハミガキの活用)
完全に断水し、飲料水さえ十分にない場合は、市販の「洗口液(マウスウォッシュ)」や「液体ハミガキ」が救世主になります。
これらは水で薄めたり、後から水ですすいだりする必要がないため、災害時に最も重宝します。
ただし、この2つは使い方が根本的に異なるため注意が必要です。

・洗口液(マウスウォッシュ):お口に含んで20〜30秒ほどブクブクうがいをして吐き出すだけで完了です。ハブラシが使えないときの殺菌・消臭に効果的です。
・液体ハミガキ:お口に含んでブクブクうがいをして、行き渡らせた後に「ハブラシで磨く」必要があります。磨いた後は、水ですすぐ必要はなく、吐き出すだけで大丈夫です。

シチュエーションD:道具も水も何もないとき(唾液腺マッサージ)
本当に何も物資がない時、最大の武器になるのは「自分自身の唾液」です。
唾液には、お口の中の汚れを洗い流す「自浄作用」、細菌の増殖を抑える「抗菌作用」、お口の粘膜を保護する「粘膜保護作用」など、天然の優れた健康維持機能が備わっています。
しかし、災害時のストレスや緊張状態(交感神経が優位な状態)が続くと、唾液の分泌量は極端に減少して口がカラカラになります。
そこで、意図的に唾液を分泌させる「3大唾液腺マッサージ」を実践しましょう。

①耳下腺マッサージ
・場所:上の奥歯あたりの頬(耳の手前、やや下)
・方法:人差し指から小指までの4本の指を頬にあて、後ろから前へ向かって円を描くように優しくもみほぐします(10回程度)。

②顎下腺マッサージ
・場所:あごの骨の尖った部分の内側(エラからあごの先にかけての柔らかい部分)
・方法:親指の先をあごの骨の内側の柔らかい部分にあて、耳の下からあごの先に向かって、5箇所くらいを順番に優しく押し上げていきます(各5回ずつ)。

③舌下腺マッサージ
・場所:あごの真下、舌の付け根の真裏あたり
・方法:両手の親指を揃えて、あごの真下の柔らかい部分を、上(舌を突き上げる方向)に向かってグッと優しく押し上げます(10回程度)。
このマッサージを行うと、じわっとお口の中に唾液が広がってくるのを感じられるはずです。
唾液が出たら、すぐには飲み込まず、お口全体に行き渡らせるようにしてから飲み込むか、吐き出してください。
また、「シュガーレスガム」を噛むことも、唾液を出す非常に有効な手段です。

デリケートな方への口腔ケアの注意点

避難生活では、小さなお子様からご高齢の方まで、それぞれの年齢や身体の状況に合わせた細やかな配慮が必要です。

1.高齢者・要介護者へのケア:誤嚥を徹底的に防ぐ姿勢ご高齢の方、特にお身体が不自由な方の口腔ケアを行う際、最も注意しなければならないのは、ケア中に水や唾液が気管に入って「誤嚥」させてしまうことです。

・正しい姿勢を保つ:寝たきりの状態や、後ろに大きくのけぞった姿勢でケアを行うと、水分がそのまま喉の奥に落ちてしまいます。可能な限り椅子や車椅子に座るか、ベッドの背もたれを起こし、「あごを少し引いた姿勢」をとってもらいます。
・麻痺がある場合の注意:脳梗塞などの後遺症で左右どちらかに麻痺がある場合、麻痺している側の頬の内側に食べかすや細菌が溜まりやすくなります。鏡で見たり、指で確認したりして、麻痺側の汚れを念入りに取り除いてください。

2.入れ歯を使用されている方:「24時間つけっぱなし」は絶対にNG災害時、「入れ歯をなくすと困るから」「洗う水がないから」という理由で、入れ歯を何日も外さずにずっとつけたままでいる方がいらっしゃいます。これは非常に危険です。入れ歯と歯ぐきの隙間は、細菌にとって格好の繁殖場所です。汚れた入れ歯をつけっぱなしにしていると、そこから強烈な細菌が繁殖し、誤嚥性肺炎のリスクが跳ね上がります。また、歯ぐきが炎症を起こして強い痛みが発生し、食事の摂取ができなくなる原因にもなります。

・水が足りなくても毎日外す:少なくとも1日1回(就寝前など)は必ず入れ歯を外してください。少ない水での洗浄法:ウェットティッシュやティッシュペーパーで入れ歯の表面の汚れやネバつきをしっかり拭き取った後、コップの少量の水で洗い流します。
・保管方法:本来は水に浸けて保管するのが理想ですが、水がない場合は、乾燥を防ぐために濡らしたティッシュやハンカチに包んでケースに保管してください。決して汚れたまま放置しないでください。

3.乳幼児・お子様へのケア:ストレスによる虫歯急増を防ぐ災害時、子どもたちも言葉にできない大きなストレスを抱えています。避難所などで配られる救援物資には、パンやアルファ化米、お菓子、ジュースなど、炭水化物や糖質が多く、お口の中に残りやすいものが増える傾向があります。さらに、生活リズムの乱れからダラダラと食べ続けてしまう「だらだら食い」が起きやすく、これらが重なると避難生活中に一気に虫歯が進行してしまいます。

・「食べたらうがい・飲むなら水」の習慣:お菓子や甘いジュースを口にした後は、必ず水でうがいをするか、お茶や水を飲んでお口の中の糖分を洗い流す習慣をつけさせましょう。
・スキンシップを兼ねた仕上げ磨き:不安がっているお子様の心を落ち着かせるためにも、親御さんが優しく声をかけながら、仕上げ磨きや拭き取りケアをしてあげてください。お口のケアはお子様の自律神経を整え、リラックスさせる効果もあります。

今回の教訓を未来へ活かす「お口の防災グッズ」リスト

今回の市川市での豪雨災害は、私たちに「いつ、どのような災害が身近に起きるか分からない」という教訓を与えてくれました。
今回の経験を無駄にせず、ご自宅の非常持ち出し袋や防災リュック、備蓄の中に、ぜひ以下の「お口の防災用品」を追加してください。
これらは普段から使いながら備える「ローリングストック」がおすすめです。

グッズ名:液体ハミガキ / 洗口液
災害時の役割・メリット:水がなくても口内を殺菌・洗浄できる。スティックタイプの個包装が特におすすめ。
備蓄の目安(1人あたり):ボトル1本 または スティック10本以上

グッズ名:口腔ケア用ウエットティッシュ
災害時の役割・メリット:ハブラシがない時、指に巻いて歯や粘膜の汚れを確実に拭き取れる。
備蓄の目安(1人あたり):30枚入り1パック

グッズ名:防災用ハブラシ(水なし対応など)
災害時の役割・メリット:毛先が細く、少量の水でも汚れが落ちやすいもの。
備蓄の目安(1人あたり):家族の人数分を用意。1〜2本

グッズ名:シュガーレスガム
災害時の役割・メリット:噛むことで唾液の分泌を促し、お口の自律洗浄とリフレッシュ(ストレス緩和)になる。
備蓄の目安(1人あたり):1パック

グッズ名:紙コップ・ティッシュ
災害時の役割・メリット:うがい液を吐き出す際、紙コップにティッシュを詰めておくと、そのまま燃えるゴミとして捨てられる。
備蓄の目安(1人あたり):各1セット

グッズ名:入れ歯ケース・洗浄剤
災害時の役割・メリット:入れ歯使用者必須。断水時でも汚れを浮かせて落としやすくするために洗浄剤があると便利。
備蓄の目安(1人あたり):1セット

まとめ

お口のケアは「心のケア」。
避難生活や災害の片付けで心身ともに疲れ果てているとき、お口の中をすっきりとリフレッシュさせることは、想像以上に心を軽くしてくれます。
ミントの香りや、お口の中のみずみずしさを取り戻すだけで、「よし、もう一踏ん張り頑張ろう」という前向きな気持ちが湧いてくるものです。
口腔ケアは、病気を防ぐための医療行為であると同時に、傷ついた心を癒やす「心のケア」でもあるのです。
最初にお伝えしました通り、私たち三浦歯科医院は、多少の浸水被害こそあったものの、現在は万全の体制で診療を行っております。
体力が落ちやすい今だからこそ、お口のトラブルを放置することは全身の健康にとってリスクになります。
市川市の地域の皆様が、この困難な災害を乗り越え、再び安心して日常の笑顔を取り戻せるよう、私たちは歯科医療の面から全力でサポートさせていただきます。
お口に関することなら、どのような些細なことでも我慢せず、どうぞお気軽に三浦歯科医院までご相談ください。
皆様の安全と、一日も早い復旧を、スタッフ一同心よりお祈り申し上げます。

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